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2016年12月号 「痛風の鍼灸治療」

ヨーロッパの歴史上の著名人達も「痛風」に悩まされてきたことは有名です。美食を好むアレキサンダー大王、ルイ14世やミケランジェロなどです。

 日本では、明治以前には、「痛風」は、なかったといわれています。ところが、食生活の欧米化が進み、徐々に日本でも増え始め、現在では、約50万~60万人の痛風患者が居るといわれ、さらに痛風予備軍といわれる「高尿酸血症」は、約500万~600万人もいると推定されています。

 私たちの身体の中にはプリン体という、生きていくうえで欠かせないものがあります。プリン体は遺伝子にも含まれ、エネルギーの源でもあります。プリン体が代謝されると最終的には尿酸という物質になります。

 痛風は、尿酸が関節の中で固まって結晶になるために起こる関節炎を主な症状とする疾患です。関節炎は突然起こるので痛風発作と呼ばれることもあります。

 血液中の尿酸値はそもそも男性の方が女性よりも高いので、痛風患者さんも男性が多いです。

 西洋医学の治療では、発作時には関節の安静を保ち、抗炎症薬で痛みを抑えます。症状が強い場合は、ステロイド薬の内服または関節内注射で対応することもあります。

 発作がない時は、尿酸産生阻害薬または尿酸排泄促進薬で高尿酸血症を改善させます。しかし、高尿酸血症の治療には、薬物治療だけでなく生活習慣の改善が重要です。肥満の解消、アルコール飲料の制限、プリン体の摂取制限、十分な水分の摂取、運動などです。

 中国医学では痛風は「痺症(ひしょう)」の範疇に入り古くから治療が行われてきました。

 急性関節炎期(風湿熱型)には、関節は赤く腫れ上がって、激しい痛みの起っている関節周囲に鍼灸治療を行い、滞った熱と湿を除去し腫れ、痛みを軽減させます。

 発作がない時の治療では、原因となっている食生活や日常生活改善の指導を行うのは西洋医学と同様ですが、鍼灸治療で各関節、さらには全身の血流を改善し、尿酸塩を沈着させないように予防的に鍼や灸をします。

 最近の中国医学の臨床研究では、痛風の痛み発作を予防するためには、もう1つ痛風発症における見逃せない要因として「ストレス」を上げています。過剰なストレスにより自律神経のバランスが崩れると交感神経が高ぶり過緊張から血管が収縮し、血流が悪くなる原因となるからです。

たとえ高尿酸血症であっても尿酸塩を沈着させないことが重要です。そのためには血流を良くし、沈着するような澱みを作らないことが最低限必要になります。そういう時こそ鍼灸が力を発揮します。

 鍼灸治療を受けると副交感神経が優位になり、リラックスすることで血管もゆるみ、血流が良くなります。さらに緊張や運動不足で硬くなった筋肉もほぐれ、筋肉によって締め付けられていた毛細血管も通りやすくなり、体中の血液循環が改善され「痛風」の予防に役立ってくれるのです。

「鍼灸は、未病を治す予防医学」でもあります。

投稿者:tcm-editor

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