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2021年06月号『多発性硬化症と中国医学』

 多発性硬化症 Multiple Sclerosis (MS) は、中枢神経系(脳・脊髄)に「脱髄」というタイプの炎症を起こす疾患です。欧米人(白人)に多い病気ですが、日本でも約1万人の罹患者がおり、発症年齢は、おおよそ10歳から50歳ぐらいで、平均年齢は27歳です。女性罹患者の割合が多く、男女比は約1:3です。
 発症原因は、解明されておらず、自己免疫と呼ばれる生体反応が病態に強く関わっており、ウイルスやバクテリア感染、体質、環境、ストレスなどが病気の活動に影響していると考えられています。中枢神経(脳・脊髄・視神経)に繰り返し炎症が起こり、治療法は今のところ無く、日本では指定難病に認定されています。
 西洋医学の急性期治療は、副腎皮質ホルモン剤を短期間に大量投与するステロイドパルス療法が行われ、効果がみられない場合は「血漿浄化療法」が行われる場合もあります。症状が治まっている寛解期には、再発予防にインターフェロン・ベータ治療が行われ、発症早期の治療開始が病気の進行を抑えることが実証されています。しかし、患者さんの多くは後遺症に悩んでおり、対症療法によって症状を抑えることしかできないのです。

 中国の大学病院では、多発性硬化症の治療に中国医学(東洋医学)を積極的に取り入れ併用することで効果を上げています。中国医学の診断では「肝腎両虚証」と診られるケースが多く、人体にとって最も大切な肝腎要の肝と腎が虚弱になっていると診て、肝腎を補う漢方薬や、鍼灸治療で、三陰交穴、太渓穴、肝腧穴を用いて肝腎の働きを向上させます。
 また、後遺症に対しては、手足の痙縮、痛み、つっぱり感、しびれ感などの症状に対して、鍼灸治療で血液の循環や神経の流れを改善し、症状を回復させています
 中国の病院だけでなく、欧米諸国でも、西洋医学と中国医学との統合の必要性が高まり、多くの医療の現場で西洋医学のみの治療に頼らない「統合医療」が実践されています。

投稿者:tcm-editor

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