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2021年12月号『胃下垂と中国医学』

胃下垂とは胃の機能的および形態的異常の総称であり、胃が正常の位置よりも垂れ下がっている状態のことを指します。
通常、胃透視検査(バリウム検査)により診断されます。

胃下垂そのものが必ずしも病的な意味を持つとは限りませんが、上腹部不快感、腹部膨満感、胃もたれ、悪心、食欲不振などの胃アトニー(胃の筋肉の働きが弱った状態)を併発していることもあります。その他、肩こり、めまい、倦怠感などの自律神経症状を訴えるケースもあります。

胃下垂の場合、食後には、下腹部がぽっこり膨らむのが特徴です。
男性よりも女性に多く、特に痩せ形の女性や経産婦に多い傾向があり、腹部の緊張(筋力)が弱いため、胃角が骨盤内にまで垂れ下っていることがあります。胃だけでなく腸や腎臓など他の臓器下垂も伴って、臓器を圧迫し、子宮内膜症、子宮筋腫の原因になる場合もあります。

胃の組織は、胃下垂によって胃壁の筋肉の緊張が伸びて低下し、正常に機能できなくなります。蠕動運動(食べ物を細かく砕いて溶かす)が低下すると、食べ物の消化が進まず栄養が効率的に吸収されにくくなります。また、食べ物が胃の中に長時間停滞するため、空腹感がなく、食欲不振という悪循環に陥ります。

西洋医学では、胃下垂は体質的なものなので、ほとんどの場合、特に治療は行われませんが、中国医学(東洋医学)では、「中気下陥(ちゅうきかかん)」「脾虚下陥(ひきょげかん)」と診て、胃腸の不定愁訴症状に使う漢方薬を処方し治療します。胃腸の不調は万病の元と考え、未病を防ぐための重要な症状と捉えているからです。

鍼灸治療では、昔から胃腸疾患に効果のある「足三里(あしさんり)」という経穴(ツボ)を用いて治療することが多いです。
現代になって経穴の効果の研究が進み、ヒトや動物の実験で、足三里への刺鍼治療中にレントゲンで胃の状態を映すと、胃下垂状態だった胃が、正常に働くことが解明されています。

投稿者:tcm-editor

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